フォードのブログ

理系大学院生のブログです。

AI アカデミックフォーラム2020に行ってきた

タイトルの通りMicrosoft主催のAIに関するフォーラムに行ってきた。技術的なフォーラムではなくてどちらかというとAIの社会実装や教育をどうするかみたいな内容が多かったように思う。当日どのような話がなされたかを残しておこうと思う。参加者はAIを専門としない大学教育関係者がほとんどだった。

オープニングトーク

麻布十番から歩いたら思いの外遠くて途中迷い5分ほど遅れて会場入りしたので最初に別のことを言っていたかもしれない。

ビジネス現場と教育機関におけるAIに関する取り組み

アジア太平洋地域の企業及び教育機関にアンケートを取ったところ、教育機関の1/3ビジネス現場では41%がAIを活用している。教育機関がビジネス現場に比べて遅れている点としてcultureとdataが挙げられていた。意外にもstrategyとinvestmentも重要なのだが両者で大きな差はない。

cultureについてはデータドリブンに取り組んでいくことに転換ができていないということらしい。スピーカーの方もこの転換はとてもchallengingだと認めていた。

dataはavailability of dataつまり教育機関内部にデータがないこと。様々なデータを統合して利用するのに書類仕事が多いのも問題だと。

教育機関での取り組み

公園では二つ挙げられていた。

一つはFLEXAというAIを活用した教育現場でのプラットフォーム。リンクはこちら

MicrosoftのAIを活用したミラノの大学の取り組みで、学生一人一人にパーソナライズした様々なサービスを提供し学び続けることを支援してくれる。

もう一つはQBotというシドニーニューサウスウェールズ大学の取り組み。リンクはこちら

同じくMicrosoftのサービスを使って質問とその回答のペアを学習して生徒に最適なチューターをマッチングさせるらしい。

reasonable AIへの取り組み

  • Coalitions and working groups
  • Advocacy and corp responsibility: 顔認識の原則は規制されるべき
  • Accelerating societal impact: AI for Earth, AI for Accessibility, AI for Cultural Heritage and AI for Humanitarian Action

それぞれAIに関する共同研究、顔認識の規制、地球や文化遺産などへのAIの適用。

感想

最初のアジア太平洋地域の企業と教育機関の比較は国別に見るとどうなるのだろうと思った。日本は体感的に活用率はもっと低そうに思う。教育機関の内部にデータがないのはその通りだと思っていてだから企業との共同研究などがあると思っていたけれど、教育機関での取り組みで挙げられていたようなケースを考えると今までの教育機関に満足なデータはなさそう(定期試験の点数や出席率くらいしかデータはなさそうだがそれでは足りない)なので確かにビジネス現場に比べてビハインドかもしれない。

あとreasonable AIはどのように訳すのだろうか...

基調講演

東大の情報学環長である超塚登さんによる基調講演でトピックとしては教育をどうするかとどのような技術分野に注力すべきかについて。

教育についてはコンピュータサイエンスをもっと学ぶべき、注力すべき分野はバックエンドだとのことだった。

教育をどうするか

そもそもなぜ科学(サイエンス)を学ぶべきなのかということから話は始まった。

昔賢者や神が森羅万象を知っていることになっていたが、近代科学以後神も知らないことがあることを人類は知った。そして未知の現象を探究するために観察し実験し数学モデルを組み立てるようになった。こうした取り組み方が科学的手法でありどのような問題にも適用できる汎用的な手法だからこそ我々は科学を学ぶ。

そしてなぜコンピュータサイエンスを学ぶべきかというと、コンピュータの発明が重要と考えているからでありなぜ重要かというと人類が初めて作った万能機械だから。計算機で原理上解ける問題はチューリングマシンも解けることが数学的に証明されていて、コンピュータはどんな問題にも適用できる汎用的なものだからこそ我々はコンピュータサイエンスを学ばないといけない。

またコンピュータサイエンスの一分野の深層学習も重要。近代科学は要素還元主義を前提としてきたが、生命・社会・経済・ビジネスなどの複雑系では一つの要素に還元することは困難である。ホーリズムという考え方は今まであってもそれを実現する手法がなかったが深層学習は唯一の実用的な手法だと言える。

このような理由からコンピュータサイエンスを学ぶべきだが、初等教育中等教育において人文社会系の科目や他の理系科目とどのようなバランスで教えるかは国家戦略や国民のコンセンサスが関わってくるので議論が必要になるだろう。TensorFlowを用いたきゅうり分類の例などのように規模が小さい案件は多くコーディングできる人間が増えればこのようなコンサルやベンダーが手を出さないくらい小さい規模の問題は解決されていくだろう。

日本が注力すべき分野

日本の大学生数はアメリカの1/3程度だがCS専攻に限るとアメリカの1/6程度になる。今までは少数精鋭でやってきて今後も中期的にはこの傾向は変わらないだろうから全方位で頑張るというのは無理で選択が必要になる。

特に日本の問題としてwhat to makeに着目しすぎでhow to makeを軽視しているということがある。実行時支援プラットフォームだけでなく開発支援プラットフォームや運用支援プラットフォームにも注力する、スピーカー曰くバックエンドに注力すべき。

他にもIoTデバイスについていえば大量のノードテストやデバッグ、ソフトウェアのインストールやアップデートといった問題があり、機械学習についてもソフトウェアのテストはどうするか、結果の正当性はどうチェックするか、はやぶさなど人工衛星に用いられる3多重系決定システムは可能かなどの問題がある。

ソフトウェア単体の開発手法ではなく、ソフトウェア+データやソフトウェア+外界をあわせた開発手法が必要になる。

感想

前半の教育について国民的議論が必要といっていたが、誰もが教育を受けたことがあり一家言あると思っているだろうことを考えると議論はまとまらなそうと感じた。個人的には統計学は国民一人一人が学んでおくべきことだと思うがそれ以外のCSを学ぶよりももっと根本的な科学的手法を学ぶべきなのではないだろうか。掛け算の順序でごちゃごちゃいっているようではきついと思う。

後半の日本が注力すべき分野に関しては、いってしまえばいままで全方位がんばってきたが国力的にそれはキツくなったので注力する分野を絞ろうということだと思うが、これも日本では難しそうだと感じた。戦略を練って何かを選び何かを捨てることに関してうまくいった例を見たことがなくシベリア出兵のように始めるのはわりとすぐにやるのに投入したリソースに引きずられてずるずる続けてしまうのがこの国だと思う。

3セッション

杉山将先生と西野恒先生のどちらかといえば理論的なセッションとMicrosoftの宣伝セッションからなる.

杉山先生セッション

最初はNeurIPSの動向および2015年と2019年の比較で日本のプレゼンスが小さいという話だった。次に近年の動向として教師あり学習ならデータが多ければ精度は上がるが、ラベル付きデータを集めるのは高コストなので以下のような対策が必要という話に。

  • データの収集方法を工夫。コンソーシアムでデータを共有したりクラウドソーシングしたり
  • シミュレータを使って擬似データを生成。自動運転やドローン、地震や気象など
  • ドメイン知識を活用。人海戦術
  • コストの低い弱いデータを活用。弱教師付き学習

そして最後の弱教師付き学習として杉山先生の研究(正例とラベルなしデータからの学習、正例と信頼度からの学習、補ラベルからの学習)が紹介されて最後に理研AIPの人材育成などの取り組みが紹介された。

西野先生セッション

画像認識の研究内容の発表、最後に京大の「人を知る」人工知能講座の紹介。画像認識はわからないので困ったと思っていたが、幸か不幸か理論的話は少なめだった。

  • 局所視覚情報と大域的コンテクストを用いた素材認識
  • 人流のモデル化による異常検知やトラッキング
  • 複数波長を用いた水中物体形状の復元

といった内容。

Microsoftセッション

日本マイクロソフトの方がMicrosoftの取り組みを紹介していた。最初のオープニングトークでも紹介されたAI for Humanitarian ActionのビデオやSeeing AIのデモ(結局ネットワークが不調だかでできなかったが)、首里城復元プロジェクト、AI for Earthの助成金などが紹介された。

感想

最初の先生二人のセッションでは機械学習アルゴリズムアーキテクチャーの話よりも日本のいわゆるAI人材と世界との違いが面白かった。日本の人材は海外のコミュニティに入れていないとは聞いていたが大学の先生が言うほどだったとはと驚いた。海外とのコネクションが重要ならば人材の循環が必要で国内ポストが減少している日本で海外からの人材が循環していけるのか不安になった。

パネルディスカッション

以下の三つのテーマに関してパネルディスカッションがあった。

  • 社会:人間中心社会とデータ駆動型社会(これから求められる社会像や人材像)
  • 方法:社会構築と人材育成の場や工夫(大学や産業界の役割)
  • 行動:課題と今後のアクション(今日からできることや連携の可能性)

パネリストは杉山先生と西野先生に加えて阪大の石黒浩さん、NTTデータの役員、政府CIO補佐官とオープニングトークをしたMSのディレクターの六人。

内容はいろいろ話が飛んで全部は覚えていないので、覚えている内容でかつ耳に残ったことを書き出すと以下の三点。

  • 必要な教育として人としての教育や哲学が大事と言う意見が複数出たのが意外だった。基調講演では漢文は義務教育に必要あるのかみたいな話が出ていたので。
  • 杉山先生の多様性が大事と言う話が印象的だった。経済学者は経済を教えろと言うし芸術家はアートを教えろと言うしコンピュータ科学者はプログラミングを教えろと言うがそれぞれ一理あるわけで、ひとりに全部を求めるのは無理があるしカリキュラムに何かを足すなら何かを引かないとと言うのはその通りだなと思った。
  • これまた杉山先生の日本の学生を海外に行くようにモチベートさせようと言う話は自分の専攻とは違うのだなと思った。各年複数人が交換留学などに行っているので情報系ならもっと海外に行くものだと勝手に思っていたがそうでもないらしい。まあ博士課程で海外に行けと言う話ならうちの専攻もほとんどいないわけだしそうした傾向はあるのかもなと思った。

全体の感想

大学の先生が二人とも人材育成について時間を割いていたのが印象的だった。国際学会に参加し海外の学生を受け入れている大学の先生は日本と海外の人材の違いを痛感しているのかもしれない。そもそも国内のアカデミアポストが減っている中で一度海外に出たら日本に戻ってもポストがないと思われていることが一因としてあるのではないだろうか。国際的な人材の循環に日本も入っていくにはいろいろ問題が残っていそうだなと思いながら六本木を後にした。